2011年10月1日土曜日

大人の憩いの場

渋谷の円山町と言えば、都内有数のラブホテル街として有名です。

道玄坂から一歩小道に入るとそれまでの喧噪から離れ、暗がりの中に浮かぶホテルのネオンサインが暗い夜空を焦がすかのように見え、

そこを行き交う男と女の背中は、これから情事に向かうのか、あるいはその帰路なのかは定かならずとも、どことなしかその周りだけが濃い空気に包まれているかのようで、

ホテルの中で今まさに交わっている数多くの男女から発せられる気も混ざり合い、そこは一種独特の妖気漂う人外魔境の風情。

学生時代、渋谷で友人たちと朝まで飲んだ後に外を出れば、道玄坂からたくさんおりてくる男女に、共に世を明かした疲れと満足感がその表情に浮かび、若借りし頃の私には、やるせない羨望と興奮をもたらせたことを記憶しています。

しかし、その円山町はかつては情緒溢れる花街であったことも良く知られ、女性はセレブのみの大人の社交場としてにぎわい、芸者さんの奏でる三味線や舞の音が聴こえていたそうです。

昨夜、そんな円山町の中にある老舗の「ひで」というおでん屋で食事をしましたが、その絶品の味と着物姿の仲居さんや録音とはいえ聴こえてくる三味線がここちよく、
その町を漂う妖気とはまた異なる風情を楽しむことが出来ました。

その後またラブホテル街を抜け、駅に向かう途中、
いわゆるセンター街の一番奥に佇む「門」という老舗バーに立寄りますと、
そこはまた昭和の風情漂い、ここもまた大人のお店。

やはり学生時代にもこのバーに来た記憶がありますが、その当時の私にはおそらくこのバーのカクテルの味などわかっていなかったはずで、
ただ青春の門の入り口に立って、大人ぶっていただけなのでしょう。

想えば若かりし頃は、力と量でした。

たくさん食べ、たくさん飲んで、空腹を満たし、酔うことが楽しくて、
同様に、セックスもただただ性欲を満たすことが目的。
つまり微妙な味などわからなかったけれども、

こうして歳を重ね、経験を重ね、
量よりも質が大切になってきたのも、
ラブホテル帰りのカップルへの羨望や、大人びたバーへの背伸びがあったからこそ。

先週の同窓会の影響か、ふっと昔を懐かしく想った夕べの宴でした。

食事も女も、
大人の味、わかる大人になれてよかったです。